論文翻訳における主語――述語構造の使用
赤と青を混ぜると紫になる。「 だれが 」混ぜるのだろう。「 なにが 」紫になるのだろう。
本小論では、主語 - 述語構造をテーマに取り上げ、この構造が日英両言語においてどのような位置づけにあるのか考えてみたい。冒頭の文に見られるように、日本語の文は主語を備えていないことも多く、したがってここで論じるのは、正確には 「 主語 - 述語構造 」 ではなく 「 ( 主語 ) - 述語構造 」である。
筆者は日頃、論文を中心に翻訳を行っているが、内容自体が易しくない論文の翻訳においては、正確性はもちろんのこと、翻訳先言語の読み手が読みやすいように配慮しなければならない。
「 ( 主語 ) - 述語構造 」と一口に言っても、日本語と英語ではかなりの違いがある。既に述べたが、日本語では文に主語が備わっていないことが多い。これが第一の違いである。一見単純な違いに思えるが、実はこれが侮れない。冒頭の「 赤と青を混ぜると紫になる 」が「 Red and blue make purple 」と訳されたらどうだろうか。なぜこんなに構造が変わってしまうのかと言いたいところだが、これには、先の日本語文を英語文に訳す際に、英語の側で主語が必要になることが影響している。主語の有無に関する日英両言語の性格の違いが、翻訳の際に大きな構造転換を引き起こすのである。以下は科学文献でよく見られるパターンである。
● Then 20 g anhydrous sodium sulfate is added to dry the solution. The solution is filtered and
the filtrate is concentrated on a rotary evaporator in a two litre round bottom flask.
● 次いで、溶液に無水硫酸ナトリウム20gを加えて脱水する。溶液をろ過し、ろ液を
2リットルの丸底フラスコに入れてロータリーエバポレーターで濃縮する。
英語の論文を見慣れていないと、なぜここで受動態がと思ってしまうが、英語の側には主語を掲げなければならないという事情があるのである。
「 赤と青を混ぜると紫になる 」と「 Red and blue make purple 」を見比べてみると、主語の有無以外にもう一つ違いがある。第二の違いとはなんだろうか。それは、日本語文で二度使われている「 ( 主語 ) - 述語構造 」が、英語文で一度しか使われていない点である。筆者が英語の論文と日本語の論文を日頃目にしていて感じるのは、「 ( 主語 ) - 述語構造 」の使用回数の違いである。論文の文章を構成する各文に「 ( 主語 ) - 述語構造 」が見られるのは日本語でも英語でも当たり前のことであって、筆者がここで言いたいのは、一つの文において「 ( 主語 ) - 述語構造 」 がどのくらい使われるかということである( ここでは句点 ・ ピリオドで区切られる単位を 「 文 」 と呼ぶ )。
以下の日本語文では、短い文の中で 「 ( 主語 ) - 述語構造 」 が繰り返し現れるが、くどいという印象は受けない。むしろ日本語では好まれる傾向にある。
● 渡り鳥の死体を検査したところ、H5N1型鳥インフルエンザウィルスに感染していることがわかった。
しかしながら、同じ内容を英語で論文調に表現するとなると、やはり以下のような構造が適当であろう。明快なSVO構造である。
● An examination of the dead migratory birds revealed infection with the H5N1 avian flu virus.
特に英語の科学文献では、上記のexamination ( < examine 「 検査する 」 ) やinfection ( <
be infected「 感染している 」 ) のような派生名詞の使用が目立つ。では、次の例はどうだろうか。
● The tests revealed sharply declining infection rates over the course of the MDA program.
● A test for infection in mosquitoes also showed infection rates plummeted after MDA.
日本語であれば、「 { の期間を通じて / の後で } 感染率が急激に低下していることが{ わかった / 明らかになった } 」と「 ( 主語 ) - 述語構造 」を重ねたくなるところだが、上の二つの英語文では「 ( 主語 ) - 述語構造 」 は一度しか出てこない。decliningやplummetedのような分詞の使い方に注目されたい。また、日英両言語における「 ( 主語 ) - 述語構造 」の使用頻度の差を考える上で、英語の前置詞句の存在も見逃せない。
● These individuals tend to digest meat poorly because of low gastric acidity.
● For objects with a surface area less than 100 cm2, the entire surface should be swiped, and the activity per unit area should be based on the actual surface area.
下線の部分は、日本語ならやはり「 胃液の酸度が低いために 」、「 表面積が100cm2未満の 」と「 ( 主語 ) - 述語構造 」を使いたいところである。前置詞句は、一番目の例のように副詞として働く場合もあれば、二番目の例のように名詞を修飾する場合もあるが、いずれの用法においてもその使い方には注意すべきである。
日英間の翻訳にあたっては、日本語で「 ( 主語 ) - 述語構造 」が使われているから英語でも使う、あるいは英語で「 ( 主語 ) - 述語構造 」が使われていないから日本語でも使わないという一点張りの形式主義ではなく、そもそもその「 ( 主語 ) - 述語構造 」の使用実態が日本語と英語とでどのように異なっているかをよく観察し、翻訳先の言語で好んで用いられる表現形式を選択することが大切である。
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Fronting Words
Japanese and English use different writing patterns. Japanese uses more fronting words than English. Therefore, when writing in English, overuse of fronting words looks awkward. Thus, writers who translate their own work directly from Japanese to English may use too many fronting words. However, some writers feel a need to do this.
If the last three sentences look awkward to you, that is because we do not normally see fronting words used in three successive sentences in good written English.
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