ポルトガル語翻訳の面白さ
ポルトガル語の文章を読んでいたときのこと。
旅行ガイドブックに紹介されていた観光名所の案内に目を通していると、見慣れない単語に出くわした。BIOMBOという単語だ。手元にあった小さな辞書を引いても、これだと思えるようなしっくりとくる訳が出てこない。そのモノは博物館の中に陳列されているのだが、小さな辞書からは形容詞の意味しか出てこない。どう考えても名詞でなくてはならないのは明白だったため、もう少し大きめの辞書を引いてみて、ようやくわかった。それは「屏風」だった。
「なるほど。BIOMBOは屏風か」と思ったところで、ちょっとした錯覚に陥ってしまった。それは、「元々BIOMBOなるものがポルトガルに存在し、それが日本に伝えられて、風を閉じるという意味になるように漢字をうまく当てられ屏風が誕生したのではないか」というものだった。
もちろん、実際はまったくの逆だ。わが国の屏風がはるばるポルトガルへ伝えられ、日本語の発音どおりに外来語として使われるようになったのである(ちなみにポルトガル語のアルファベットのOは、ポルトガル本国の発音だと語尾ではUの音になる)。
ポルトガル語翻訳をしていて、日本語がポルトガル語化したものに出会う機会はほとんどない。BIOMBOは日常的に使う言葉ではないため、通じないケースが多く、ポルトガル翻訳上ではTELAなど他の単語を使って表現することになる。
しかし、逆のケースではそうではない。つまり、日本語化していて、われわれが普通に使っている言葉の場合には、5世紀前に伝えられたポルトガル語がそのまま残っていることが多いのだ。パン、バッテラ、ボーロ、ビードロ、シャボン、カステラ、金平糖、カッパ、カルタ、などなど。このうち「金平糖」はCONFEITOという砂糖菓子だった。先人はポルトガル語翻訳の際に、言語の持つ意味をみごとに表現して「糖」という漢字を織り込んでいる。
パンはわれわれの食事でも大きな位置を占める食品になっているが、この言葉の語源がポルトガル語であるということを知っている日本人はどれほどいるだろうか。シャボンは石鹸のことだ。現代では、石鹸よりもシャボン玉という意味合いで使われている。ガラスを意味するビードロも、現代人は交流の深かった長崎のみやげ物を思い起こすかもしれない。また、カッパCAPAは、英語のケープと同じものと思えば納得がいくが、「雨合羽」として使われるほうが多いだろう。
中にはカルタのように「歌留多」と称して、まるで古来より日本に存在したものかのように扱われているものもある(それにしても、ポルトガル語翻訳の際に先人の考え出した「歌留多」という表現は、百人一首のカルタを想定したものかどうか定かではないが、鮮やかというほかない。「和歌が多く留まる」という言葉から、まさしく万葉の香りが漂ってくる)。
ただし、現代語のポルトガル語翻訳では、CARTAは手紙という意味になる。卵ボーロとして日本人の頭に刷り込まれているBOLOは、ケーキの意味として使われている。CASTELAはスペインのカスティージャ地方を表し、CASTELOとすれば城を指す言葉となる。
バッテラの語源はBATELA。ボートを意味するが、バッテラ寿司の姿がその形に似ているということで名づけられたとされる(いくらなんでもBATELAの意味を「バッテラ寿司」と勘違いするポルトガル語翻訳者はいないだろう)。
エクスコムシステム・ランゲージ・サービス
honyaku@excom-system.com
( 日本語 ・ 英語対応可能 )
▲ページの先頭へ
エクスコムシステム・ランゲージ・サービス Copyright 2014無断転載禁止。
|