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医薬、医療翻訳の品質を高めるために必要なことは何か

中世医療
By Hans Splinter (CC)

医学薬学及び周辺領域における翻訳 ( 以下医薬、医療翻訳と総称する ) において、品質の高い訳文を提供するために必要なことは何かということについて、主に医薬、医療翻訳者としての立場から、
  1. 医薬、医療翻訳者は顧客にご満足いただける高品質の訳文を提供するためにどのような姿勢で取り組んでいるのか
  2. 医薬、医療翻訳を御依頼いただくにあたり、ELSとしてどのような考えの下に医薬翻訳をとらえているのか
  3. 医薬、医療翻訳者としてすでに仕事をされている方々のために、訳文の品質を上げるための、いわば日常的な医薬、医療翻訳の足腰鍛錬のTips
以上の観点から本小文を上梓します。

医薬、医療翻訳において必要とされる事項として、
  1. 医学および関連領域における体系的な基礎知識
  2. そのために日常的に行い得る事項 ( ブラッシュアップ=医薬、医療翻訳の足腰強化について。リサーチ能力を含む )
以上の2点があげられますが、これらは実務翻訳分野でも一般に必要とされる項目です。本稿では主に医薬、医療翻訳 ( 臨床分野 ) について議論を進めていきます。

薬箱
By Mat Honan (CC)
1)医学および関連領域における体系的な基礎知識の取得
 例を挙げれば、副作用報告の英語論文抄録には、患者情報 ( 年齢、既往歴、診断名、合併症の有無等 )、薬剤名、投与方法、臨床症状 ( 身体症状、臨床検査データ、理学検査データ )およびその経過、治療法、結論等が記載されています。また疫学的手法や統計学的な処理について記載されている場合も少なくありません。
また、外科用手術器具の使用説明書などの文書には、器具、適応症、禁忌、手術手技に関連した器具の操作方法、術後処置について、消毒法等が記載されています。
テクストの用途に応じて、それぞれ差異はあるものの、知っておかなくてはならない知識は膨大です。

 一般に副作用報告論文などの ( 内科系 ) 論文や薬剤の添付文書の読解には、疾患、症状および治療法、特徴的な臨床データや理学所見、一般的に使用される薬剤およびそれらの作用機序、そして有害事象 ( 副作用 ) らの医学的背景について、まず母語 ( 日本語 ) で理解することで、より品質の高い訳文の提供につながります。
加えて、疫学的概念および統計学的手法らの概念を理解しておく必要があります。
 また、外科用手術器具の使用説明書などにおいては、疾患 ― 治療法 ( 手術手技 ) のみならず、解剖学的名称、実際に使用する手術器具をどのように使用しているのかというイメージを知ることによって訳文はより明確になります。

2)そのために日常的に行い得る事項 (ブラッシュアップ=医薬、医療翻訳の足腰強化について)  では、このような知識を習得するためにはどうすればよいのでしょうか?
医薬、医療論文では、とりわけ日本語の医学論文において用いられているような医学論文独特の慣習的な表現が多々あります。
医薬、医療翻訳者はそうした表現になれておく必要があります。そのためには日本語論文や専門書を読むことが重要になります。
 副作用報告についての論文や内科系の論文の抄訳などでは、上記に記した流れをまず日本語でざっと目を通して、全体像を理解することが大切です。
疾病に関する一般書、医学教科書や 「 今日の治療指針 」( 医学書院 )「 メルクマニュアル 」などといった包括的な記述がなされている書物またはweb、パラメディカルやコメディカル向けの教科書は、公共の図書館でも閲覧可能です。
 また、インターネットを利用して、「 医学中央雑誌 」や"PubMed"などの日本語、英語の専門論文のwebアーカイブにアクセスすることで、どのような表現が使われているのか知ることができます。
製薬会社のwebsiteでも、論文の抄録やweb アーカイブ、最新の医学情報が充実しています。それらの多くは無料で ( 一部医療従事者専門または有料 ) 閲覧可能です。
 外科系論文や医療器具の使用説明書などにおいては、疾病や治療法の概念、手術手技、解剖学的な背景等のほかに、イメージ検索 ( Google ) や医療器具取り扱い代理店/製造会社のwebsiteにアクセスすることで、より明確なイメージが形成され、その結果訳文の品質向上につながります。
 テクニカルタームについては専門辞書はもちろんのこと、各種web アーカイブを利用することで適切な表記を選択することが肝要です。

 
エコー
By Greg
Younger (CC)
 以上をまとめると、医薬、医療翻訳の訳文品質を上げるためには、日本語、英語ともに、該当分野の表記に慣れ親しみ、日本語での概念の理解が重要だと考えます。
また、各種web サービス ( 無料メール配信 ) などを利用して、常に新しい知識/情報に触れ、必要であればコンピュータデータとして蓄積しておくことにより、知識の整理や翻訳効率の向上に役立ちます。
 リサーチ能力は翻訳者に欠かせないスキルであることは論を俟ちません。
検索エンジンを駆使した情報収集に関しては、良書が多く出版されていますし、翻訳者向けサイトにもTips & Fallが記載されていますのでそれらを参考にしてください。またメーリングリストなどに積極的に参加することで、さらなる情報が得られることもあります。
 翻訳をご依頼いただく場合ですが、図表や学会などに発表した際のスライド、参考文献のリストなど可能な限り添付していただくと、御依頼主の意図を、翻訳者はより明確に理解することができ、かつコストや時間も短縮されることが予想されますので、事前にご相談いただければ幸甚です。

結論

医薬、医療翻訳も実務翻訳の一分野である以上、第三者への情報提供が主目的です。そのためには、原文に忠実な英文読解および理解しやすい訳文を作ることが重要なのは論を俟ちません。
こうしたことを踏まえ、本稿では、医薬、医療翻訳の品質向上のために
  1. 日本語における医学の概念の把握 ( 分野毎の包括的な概念の理解が望ましい )
  2. 英語 / 日本語の医学論文特有の慣用的な表現を使いこなすようにすること
  3. 平素から、医薬、医療分野の足腰を鍛えるために、貪欲に情報収集を行うこと
について簡単に記述しました。少しでもお役に立てれば幸いです。


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