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医薬翻訳 ( 英日 ・ 日英 ) に求められる正確性とは

本
By Okko Pyykko (CC)

直訳か意訳か ー 翻訳という作業を行うにあたり、誰もがこの問題を一度は考えることでしょう。実務翻訳の分野にもよりますが、多くの翻訳者は「 直訳では翻訳をしたことにならない 」 と考え、できるだけ整った訳文に仕上がるように工夫していることと思います。確かに、英単語をそのまま日本語に置き換えたり、日本語の文字通りに英文を組み立てたりしただけの訳文では、翻訳料金をいただくに値しない訳文かもしれません。

では、医薬分野の英日翻訳の場合はどうでしょう。直訳では翻訳とはいえないのでしょうか。実は先日、ある翻訳会社で膨大な数の医療関係の学術論文を和訳する大きなプロジェクトがありました。複数の翻訳者が分担して訳した後、その会社がチェックして翻訳者に差し戻した際に翻訳者を怒らせてしまったのが、「 原文に一字一句違わない訳文にせよ 」 という指示でした。恐らくほとんどの翻訳者はそれまで 「 きれいな日本語 」 に仕上がるように鋭意努力していたはずです。でも翻訳会社側の考えは、正確な訳文であることが第一であり、きれいな日本語になっている方がかえって誤訳を見落としやすくて“ 迷惑 ”、それに読み手は専門家なので、無理に整えた文よりも、英語に忠実な訳文である方がよい、というものでした。このプロジェクトにはかなりの人数の翻訳者が参加していたため、その中の1人が自身のブログでこのことを書いたところ、同じプロジェクトに参加した翻訳者数名が同じ不満をコメントし、うち数名はこの仕事を途中で降りてしまったと述べていました。翻訳者の言い分は、原文に一字一句従った直訳のような訳文は翻訳ではない、というものでした。「 読みやすい日本語 」 に訳してこそ翻訳者に依頼する意味があるとして、この会社の姿勢を多くの翻訳者が猛烈に批判していました。

薬ビン
By Tim Samoff (CC)
翻訳会社が翻訳者に原文に極力忠実な訳文を求めることは、そんなに珍しいことでしょうか?翻訳者が目指した 「 読みやすくきれいな訳文 」 と翻訳会社が求めた 「 原文に忠実な訳文 」 とはかけ離れたもので、相容れないものだったのでしょうか?答えはノーです。翻訳会社も翻訳者も、同じ目的に向かって訳文を仕上げる立場にあるはずです。それは、最終的に訳文をお読みになるお客様が求めるものを納品するという目的です。英日 ・ 日英を問わず、お客様に届けなければならない訳文とは、「 原文を英語 ( または日本語 ) のままで読んだ場合と同じ情報が得られる訳文 」 です。一字一句忠実に訳すことを求めた件の会社も、求めているのは直訳文なのではなく、原文に書かれた 「 情報 」 を、簡潔で過不足なく正しい日本語で記した訳文でした。つまり、正確な情報が得られる訳文なのです。プレスリリースやカタログの翻訳と、医学の学術論文の翻訳は別ものです。論文の和訳の場合は、正しい日本語で記した訳文はたいてい原文の英語よりも短くなり、読みやすい日本語になります。医薬翻訳で求められているのは、翻訳者自身が満足する美しい訳文ではなく、原文から正確にくみ取った情報を別の言語で正確に再現した訳文なのです。
翻訳者の役目とは、ある言語で書かれた情報を、その内容に手を加えることなく、お客様が望む言語で正確に書き表すことである―ここに、「 直訳か意訳か 」という問題などはじめから不要にすら思える、明らかな答えがあるのではないでしょうか。


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