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医療翻訳,医薬翻訳――三ヶ国語の海で泳ぎ疲れて

骨折
By Erik Charlton (CC)

翻訳といっても、分野は多種多様で、レベルもピンからキリまでである。簡単なビジネス ・ レターくらいなら自分で翻訳してもかまわない場合もあるし、英語を得意とする学生に頼んでもだいじょうぶかもしれない翻訳もある。

しかし、医療、医薬関係は、レベルの高い経験豊かなプロの翻訳者に頼むことが重要である。医療、医薬翻訳の誤訳は命にかかわってくるからだ。翻訳の仕事はかなり分化が進んでいるので、医療、医薬に関することは専門翻訳家に任せたほうが確かである。

どの翻訳の分野もそうだけれど、医療、医薬翻訳を専門にしようとすると常時勉強が必要だ。臨床に基づく新たな治療法や医薬など、日進月歩で進んでいる。医療、医薬論文を読み、医療、医薬用語に追いつくだけでも容易なことではない。

人にもよるかもしれないが、私の場合、和英翻訳はそれほど苦にならないのだけれど、英和翻訳はかなり苦しい。和英だと、字面を読んだ段階で英語の訳語が思いつかないということはほとんどないが ( 特殊な病名や解剖学用語、薬剤は別としても )、英日翻訳の場合、自分では分かっているつもりでも、思いもよらない医療、医薬専門用語が新たに存在していたりするからだ。

子供
By
Matthew Oliphant (CC)
たとえば骨折がテーマだとする。難しい訳語の例として「 Reduction 」を取り上げてみよう。Reduction自体は「 減らすこと 」、「 減少 」だということは高校生でも分かるだろうけど、これでは骨折をテーマとした医療文献では意味をなさない。医療、臨床の場面では 「 整骨 」、「 整復法 」が正しい訳語なのだが、前者は昔の言い方で、今では後者の方がより望ましい。

続けて、同じ骨折を整復するにしても、「 open 」と「 close 」がある。オープンとクローズなら小学生でも意味は分かると思うけれど、これを医療専門用語で訳するのが難しい。Openの方は 「 傷口を開いて 」 治すのだから外科的処置をともなう治療という状況は思い浮かぶが、この言葉の正しい訳は 「 観血的整復法 」 となる。

「 観血的 」。医療に特に関わる必要性が無ければ、おそらく一生にいちども使わない語彙ではないだろうか。「 血を観る 」から観血的。つまりは漢語なのだ。ちなみに、closed reduction の訳は「 徒手整復 」。これは、昔ながらの骨接ぎのように、外科的でない治療というのは人間の手による治療だからだろう。「 手でもって 」(=つまり「手で」)治すから徒手。

文明開化以前 ( 正確に言うと長崎の出島で細々と蘭学が伝えられた時代よりも前 )、文明は、中国から朝鮮半島経由で日本に入ってきた。西洋化が進んでいるとはいえ、医学薬学の世界では、このようにまだまだ漢語が幅を利かせているのが実情である。

将来的には和語、あるいは英語に移行していくべきだと個人的には思うのだが、伝統にはそれなりの重みもあるのかもしれない。また、open な処理を「傷口を開く処理」、closeな処理を 「 傷口を開かない処理 」としたのでは確かにまだるっこしい。ただ、私が気になるのは漢語にこだわる権威主義なのだが。

磁気共鳴イメージング
By Chris Chan (CC)
そういう背景で、翻訳を生業とする医療、医薬翻訳者は、現在の時点では、三ヶ国語に長けていなければならないということになる。もちろん、中国語が書けたり話せたりする必要はないが、熟語を読んで腑に落ちる程度の素養はあった方が望ましい。

長時間作業を続けていると、自分が今どこにいるのか分からなくなるときがある。Getting lost in the ocean of three languages, trying to deliver the best possible translation.三ヶ国語の海で泳ぎ疲れているのだろうか。




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