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トランスレーション・ブルー : 精神医学の翻訳

ハート
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Mykl Roventine (CC)

精神医学の翻訳では、新薬に関するものが多い。おそらく薬物治療がいまの精神医療の主流となっているためであろう。その際、「 三環系抗うつ薬 : イミプラミン 」のようなポピュラーな薬ならいいのだけれど、辞書はもちろん、ネット検索でもひっかからない新薬に出くわすことが少なくない。簡単にカタカナ表記できればいいけれど、新薬、特に商品名には“けったいな名前”が結構多いから厄介だ。そんな時の最終手段は、英語表記のままにしておくこと。ただし、あまり英語表記が多いと、何のための翻訳か、わからなくなってしまう。

「 心の病 」とは言っても、最近は分子レベルの解明も進んでいるので、翻訳の際は、神経学、大脳生理学、分子生物学、遺伝子学、薬物動態学などの知識を総動員しなければならない。もちろん通訳するわけでないから、学術用語を全部暗記する必要はないけれど、最低限の「仕組み」はわかっていないと、いい翻訳をするのは難しい。この場合の仕組みとは、脳内での神経伝達物質の働きであったり、遺伝子突然変異が発生する経緯だったりする。そうした仕組みをよく理解した上で、「 a 」ひとつ、「 the 」ひとつに注意しながら翻訳する。少なくとも自分はそう心がけている。冠詞一つで意味が大きく変わってしまうからだ。まあ、これはどの分野の翻訳にも言えると思うけれど。

一時期、日本の官庁でころころ名前を変えることが流行っていたようだけれど、精神医療でも似たような傾向がある。これまで慣れ親しんできた病名が、知らぬ間にポリティカリーコレクトなものに変わっていることが多い。特に自分のような海外在住組(「 在外日本人 」と呼ぶらしい )は、気を付けなくてはならない。典型的な例が、統合失調症 ( 旧精神分裂病、2002年に改称 )や認知症 ( 旧老人性痴呆、2004年に改称 ) などだ。この手のものは今後も増えるだろうから、常に自分の頭のデータベースをアップデートしておかなければならない。

珈琲
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Arturo de Albornoz (CC)
自分は英和翻訳が専門なので ( もちろん和英もやるけれど )、翻訳対象は欧米の記事や医学論文が多い。その際、訳していて、少し心配になることがある。日本の精神障害患者が置かれている現状だ。特に「 自殺率 」を目にする場合がそうである。ご存じのように、うつ病などの精神障害と自殺の間には深い関係があり、世界の高自殺率国のなかで、旧ソ連・東側諸国を除くと日本はトップである。アメリカや英国の実に2倍だ。抗うつ薬等の新薬承認を効率化し( 承認までの期間は欧米の2?3倍 )、病気に対する偏見を取り除く努力をすれば、もっと多くの日本人の命が助かるのではと考えるのは、短絡的過ぎるだろうか。ちなみに、世界で最もよく売れている100種類の薬品のうち、日本で未承認の薬は28種類に達する( 米国はゼロ )。未承認薬の中でも最も多いのが抗うつ薬などの中枢神経薬だ。

ところで精神障害でも他の疾患同様、様々な臨床試験が行なわれるわけであるが、その際に目を引くのが試験期間の長さだ。10年、20年、なかには三世代(!)にわたって行なわれた試験もあった。こういう論文を訳していると、頭が下がるというか、大変な分野なのだなあとつくづく思う。どうか日本の精神科、神経科の先生の方々、がんばってください。


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