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治験翻訳の独特な世界 その1

細胞
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Geoff Hutchison (CC)

以前、短期間ではあるけれど治験コーディネーター会社で働いたことがある。
仕事内容は、米国進出を目指す 「 治験コーディネーターの現地コーディネーター 」 といった感じ。ちなみに治験コーディネーターには元看護師や元薬剤師が多い ( 自分はどちらでもないけれど )。その時、T薬品やC製薬といった日系の大手製薬会社を回り、初めて治験という独特な世界を肌身で感じた。大学院で生化学を専攻し、普段から医薬翻訳を手がけていた自分にとって、学術用語は問題なかったが、治験業界で使われる用語や略語の数々には慣れるのに少々時間かかった。

そもそも一般の日本人にとっては、「 治験 」 という言葉からして耳慣れない。英語ではclinical trialであり、「 臨床試験 」 と訳されるのが普通だ。しかしながら治験翻訳でclinical trialを「 臨床試験 」と訳してしまったら、決して間違いではないのだけれど、治験のイロハもわかっていないと思われてしまうだろう。簡単に言うと治験とは 「 医薬品の承認を目的とした臨床試験のこと 」 である。

もともと専門用語が頻出する医薬翻訳 ( 特に英和翻訳 ) では 「 聞き慣れない医学用語 」 は珍しくなく、そういった単語に出合ったら、普通は医学辞典等で調べようと思うものだ。ところが治験翻訳の落とし穴は、一見ありふれているけれど、治験業界独特の訳語を持つ言葉にある。例えば protocol。日頃コンピュータやIT関係の翻訳を多くやっている人だと、ついつい 「 プロトコール 」 としてしまうのではないだろうか。プロトコールは、カタカナ英語としても定着しているし。しかし治験の世界では「治験実施計画書」と訳さねばならない。次にinvestigatorはどうか。これなど、うっかりすると研究者とか調査員と思ってしまう。捜査官と訳する人は『 Xファイル 』の見過ぎかもしれない。正解は 「 治験責任医師 」。「 治験担当医師 」という場合もある。そこでどちらがより頻繁に使用されているか、これらをグーグルで検索してみると、前者のヒット件数が5万5000件であるのに対し、後者は9300件。治験責任医師に軍配が上がった ( もちろんヒット件数がすべてではないが )。

点滴
By
Hamed Saber (CC)
治験翻訳では略語も多い。
前出の治験コーディネーター会社で働いた際、とても短いけれど研修期間のようなものがあり、そこではまず略語を徹底的に頭に叩き込まなければならなかった。というもの、クライアントである製薬会社の人たちとの会話では、CROやSMO、GCPといった略語がポンポン飛び出てくるからだ。もちろん翻訳する際は、その都度調べていけばいいわけであって、すべて暗記する必要はないけれど。

こうして苦労して覚えた用語 ・ 略語も、治験コーディネーター会社で働かなくなった後はすっかり忘れていた。ちょうど一夜漬けで覚えた単語が試験の後にきれいさっぱり記憶からなくなるように。そして、治験翻訳をやるようになって再び甦ってきたというわけだ。

日本の医薬品産業はアメリカに次いで世界第2位だそうである。その巨大マーケットに参入しようとする外資系製薬会社が増える一方、薬価改定等で国内の医薬品売上げが伸び悩んでいる日本の製薬会社は、海外に活路を見出そうとしている。いずれにしても今後は、和英、英和にかかわらず、治験翻訳の需要がますます増えること。


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