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法律英語 ( 英和、和英 ) 翻訳

サボテン
By Randy (CC)
法律関連の原稿を翻訳する場合はもちろん,翻訳一般について,クライアントの要請事項として 「 1. 単語を正確に翻訳すること。2. 自然な日本語又は英語にすること 」 と言われることがある。たしかに,契約書のような法的文書についていうと,数字や専門用語等のキーワードは落とせないであろう。しかし,ソースの単語をすべて翻訳すると,収拾のつかない文章になってしまい,2.の要請に反することになる。だからといって,自然な日本語にしようとするのであれば,省略や置き換え等の方法によりある程度妥協を必要とするであろう。テクニカルになるが,法律英語翻訳に限ってこれをもう少し詳しく説明すると,以下のようになる。

ソースの単語については,一般に,1. possible ( to translate ), 2. difficult but not impossible, 3. impossible の3つに分類できると思う。このうち,1.は一応翻訳可能といえるが,法律英語の翻訳の対象となる文章は長文が多いので,翻訳後に文章全体を通じて読んでみると収拾の付かないゴミのような文章となることも多い。これは,英語と日本語の文のかかり方が違うからである。また,日本語には関係代名詞がないので,適当なところで区切るか,括弧書きする他はない。これに対して,英語は,法律の文章のように物事を正確に表現するのに適していると言える。詳細を記述するために優れた言語であり,単にコンマで区切っていかようにも修飾することができるのである。しかし,日本語は助詞を使うので,そのようなことはできない ( 但し,詩や俳句のように薀蓄の富んだ文章では日本語はその威力を発揮するであろう )。つまり,法律翻訳が最も困難な言語である。例えば,次のような法律英語があったとする。
船
By Soapbeard (CC)
Company shall have the right to terminate any or all of the Services without liability of any kind.
会社は,「 一切の責任を負うことなく」,本サービスの全部又は一部について解除することができるという意味であるが,最後の ”without liability of any kind” の部分は,日本の法律実務では,「 但し,解除による損害賠償を請求することはできない」と書くことが多い。したがって,但書きを使って2文に分割するのが自然である。これに反し,英語では,without を使えば1文で完結するのである。また any or all of の部分の all は確かに全部という意味であるが,any の訳として 「 一部 」 と記載されている辞書はない。日本語に直訳すると 「 いずれか又は全部 」であるが,あまりこのような言い方はしないであろう。法律の条文上良くある表現としては,「 全部又は一部 」( あるいは一部又は全部 ) という言い方があり,このように表現するのが自然である。これは置き換えの事例である。
Company shall have the right to terminate any or all of the Services without liability of any kind.
会社は,「 一切の責任を負うことなく」,本サービスの全部又は一部について解除することができるという意味であるが,最後の ”without liability of any kind” の部分は,日本の法律実務では,「 但し,解除による損害賠償を請求することはできない」と書くことが多い。したがって,但書きを使って2文に分割するのが自然である。これに反し,英語では,without を使えば1文で完結するのである。また any or all of の部分の all は確かに全部という意味であるが,any の訳として 「 一部 」 と記載されている辞書はない。日本語に直訳すると 「 いずれか又は全部 」であるが,あまりこのような言い方はしないであろう。法律の条文上良くある表現としては,「 全部又は一部 」( あるいは一部又は全部 ) という言い方があり,このように表現するのが自然である。これは置き換えの事例である。

2.については,微妙である。例えば,「 本契約から紛争が発生した場合は,東京地方裁判所を第1審の専属管轄とする 」 という条項が契約書にあった場合,この条項の法律翻訳として,All disputes arising under, out of, in connection with, or in relation to this Agreement shall be submitted in the first instance to the exclusive jurisdiction of the Tokyo District Court. という表現が可能であり,if や in the event that 等の 「 場合 」 を意味する英語を使用する必要はない。法律上は,単に「紛争は,東京地方裁判所に提出する」と書けば通じる。また 「 本契約から発生する紛争については,東京地方裁判所を第1審の専属管轄とする 」 となっていた場合も同様で,この 「 ついて 」 も英訳する必要はない。ソースの日本語の条項は文法的に間違っていないので,日本人は読んで意味がすぐ分かるのであるが,よく読むと主語がないので不可解な文章である。 「 ~については,・・・とする 」 という日本語は極めて難解である。上記の例では,「する」を「提出 ( submit ) する」と解釈してこれを補うと法律英語になる。

最後に,3.であるが,完全な impossible とその他の impossible の2つがある。Impossibleの場合は翻訳不可能なのだから,論理的解決方法としては,これを無視 ( 省略 ) するか,もしくは,そのままカタカナ表記する ( 人名等の固有名詞 ) のいずれしかないはずである。その単語がキーワードでなく,全体として別段の意味を有しないと解されるときは省略できるが,重要な法的意味を有しているのであれば無視することはできず,カタカナ表記するか,あるいはアルファベットで原文表記する他ないであろう。

英語の契約書に必ず登場する terms and conditions of this Agreement という法律用語がある。この terms は,複数形で用いると支払い条件を意味し,他方 conditions が支払い条件以外の条件を意味する。だが,これを忠実に翻訳し,「 支払い条件および支払い条件以外の条件 」 とすると,日本語では「条件」が重複して読みにくくなるので,単に条件 ( または条項でも良いであろう ) と記載すれば足りると思われる。terms または conditions のいずれか一方を省略するのである。英語では,支払い条件と支払い条件以外の条件を区別しているのでこのように併記することは当然であり,また terms and conditions という語調は素晴らしいのであるが ( 原語であるから当然である ),これを日本語に直訳した 「 支払い条件と支払い条件以外の条件 」 という表現は読みにくいので,単に「条件」としたほうが自然になるのである。法律英語の翻訳の場合,内容の正確性が求められるのは極めて当然であるが ( 前記クライアントの要請1 ),言語特有の語調というか,視覚的な文字の配列というか美的なもの ( 前記クライアントの要請2. - 自然な日本語又は英語にすること ) も要請されるので,法律翻訳者としても配慮せざるを得ない ( 実は,翻訳の過程でこの部分に時間を費やすことが多い )。これは,完全な impossible の事例である。

チャイナタウン
By Jennifer Woodard (CC)
その他の impossible の例としては,statement がある。Statement は,法的に重要な意義を含んでいるものが多く,翻訳する機会も多い。ここで,statement とは,要するに,公式に何かを口頭又は文書で表明したもの ( something you say or write publicly or officially to let people know your intentions or opinions, or record facts - ロングマン英英辞典より引用 ) をいい,英和辞典には陳述とか,宣誓とかが一応書いてある。しかし,これらをそのまま訳語として使えることはあまりない。Statement の内容には,星の数ほどの種類があり,これといった訳が見当たらない場合が多いと思う。その内容に応じて,届出書 ( 官庁に対するstatement ) とか計算書 ( 銀行の statement ) とか訳することもできるが,困った時は単に文書とでも書いて逃げることもある。だが,語調の問題でそれができないときは,やはり statement は,「 ステートメント 」 とする他ないであろう。
以上要するに,impossible の場合,省略するか ( 完全な impossible ),あるいはカタカナ表記する ( その他の impossible ) より他に方法はないと考える。

世の中に物理的に存在するもの,例えば,太陽と sun は,同じであるが,人間が考案したもの,つまり社会的制度,法律や概念は,他国に必ずあるとは限らず,またあったとしても全く同じものであるはずがないので,法的に正確な翻訳などは本来ありえないということになる。例えば,戸籍制度は日本の他,若干の国-韓国と中国-にしかない。フランスの戸籍制度は,個人を単位とする登録であり,日本の「戸籍」という言葉は当てはまらないので,これを戸籍と和訳するのであればかなり法的にいい加減な翻訳といえるが,分かりやすいので戸籍と訳することも許されるであろう。また,担保物権として知られる英米法のリーエン ( lien ) は,留置権とか先取特権と訳されることが多いが,日本の留置権,先取特権とは内容が異なり全く同じものとはいえない。わが国の留置権は,法定のもの,つまり法律上当然に発生するものであるが,リーエンは当事者の合意によって成立するものもあるのである。日本の有限会社と米国のL.L.C ( limited liability company ) についても,訳語としては完全に対応しているものの,内容は同じとはいえない。翻訳とは,大体同じような意味のことが書いてあるくらいの文書なのである。したがって,取引に使用する場合は,参考にすることができるが,依拠すべきものは,訳文ではなくて,正文 ( text ) (= 解釈の基準となる原文のこと ) となることに注意するべきである。間違ってはならないのは,日本語が原文でも,英訳したものを取引に使うのであれば,英訳文が正文となる。この場合,The English text of this contract is the only authentic text などと記載される。ちなみに,正文は1つであるとは限らない。国連憲章の正文は,5カ国語存在する。契約書でも2ヶ国語を併記する方法もある。但し,準拠法は1つ指定するのが普通である。また理解しにくいかもしれないが,正文に使用される国語の母国と準拠法所属国が違う場合もありうる。準拠法 ( Governing Law ) として日本法を指定しているが,契約書は英語で書かれる場合がそれである。この場合,その法律的用語を含めて契約書の解釈は英米法で解釈することになる ( 但し,契約の成立 ・ 効力については,日本民法に従うことは言うまでもない )。


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