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翻訳における知識と IT 翻訳の特徴について


本稿では序論として、まずは実務翻訳という仕事そのものの特徴について筆者の考えを明らかにしたのち、IT 関連の翻訳の特徴について述べます。

実務翻訳 - その特徴

セコイア
By Mike (CC)
実務翻訳は通信 ・ ネットワーク、コンピュータ、特許 ・ 法律、証券 ・ 金融、医療 ・ 薬学、化学、食品などの様々な業種に細分化できます。なぜこのように業種ごとに分けることが必要であり、実際にそうなっているのでしょうか。外国語から日本語へ、日本語から外国語へ翻訳することには違いはないのに、なぜ現在のような棲み分けが必要なのでしょうか。

翻訳者の方であればこの疑問には簡単に答えられるものです。それは 「 特許の翻訳ができるからといって医療 ・ 薬学の翻訳もできるわけではない 」というものや 「 特許翻訳に必要な経験 ・ 知識と医療 ・ 薬学に必要なそれとは異なる 」 というものです。極端に言えば、外国語の能力はいわば基礎的なものであり、翻訳を生業とするにはさらにプラス 「 業界 ・ 業種の知識 」 が必要とも言えるのです。

このような意見はごく当たり前ですし、特に取り立てて論じるべきものではないのですが、実は非常に重要なことだと筆者は考えています。なぜなら、ある翻訳者の知識が、その翻訳者がどんな訳語を選択するかということにまで影響するからです。言い換えると翻訳の品質そのものを左右するのです。

次節ではこの 「 知識が訳文を左右する 」 という点について、IT 関連の翻訳を例にとって論じつつ、IT 関連で必要となる知識についても述べます。

IT 関連翻訳の基礎知識、および知識と訳文の関係について

IT 関連の翻訳を行う上で必須となる知識は何でしょうか。それはコンピュータに関連する知識です。では、知識が訳文を左右するということはどういうことでしょうか。以下に例を挙げて論じます。

例えばあるデジタルビデオ編集のアプリケーションについての文書内に、

import a video from a removable media

というセンテンスがあるとします。これは 「 リムーバブルメディアからビデオを輸入する 」 と訳せますし、この訳は間違いではありません。ですがこれではプロの仕事とは言えません。

この場合のimportは 「 取り込む 」 か 「 読み込む 」 と訳すことが求められます。なぜならコンピュータでのビデオ編集では 「 ビデオを輸入する 」 とは言わないからです。このような文書では import に対して 「 読み込む 」 か 「 取り込む 」 という動詞を当てるのが一般的です。

ではもう一つ別の例を挙げてみましょう。今度はコンピュータ上での操作を説明している文章からの抜粋です。

Restart windows in safe mode.
お祭り
By Elroy SF (CC)


いかがでしょう。 「 Windows をセーフモードで再起動してください 」 などの訳ができたでしょうか。この場合、「 セーフモード 」 という Windows の起動モードの知識があれば上の訳文になります。ここで 「 安全なモードで 」 という訳文が浮かんだ場合は、Windows についての知識が足りないと言えるでしょう。これらの例はどちらも英語の訳が間違っているのではなく実際に使われている知識にそぐわない、ということを示したものです。言い換えると、翻訳者には訳文とその分野の知識とを整合させることが求められるのです。

さて、IT 関連の翻訳を行う上で必要な知識はコンピュータについての知識だと上で述べました。ただし実際にはこの領域は多岐に渡り、翻訳者ごとにその得意領域はまったく異なります。

例えば筆者にはデザインソフトウェア会社での翻訳経験から、そのソフトウェアが関連する画像処理 / DTP / Web / 動画処理 および Windows、Macintosh という OS に関する知識があります。また業務として Web ページの作成をした経験や Blog、Wiki といった Web ツールを利用してきた個人的な経験から、Web に関しては中々詳しいと自負しています。一方で例えばルータやスイッチングハブなどのハードウェアについての知識はその道の人にはかなわないとも思います。

このように一口にコンピュータの知識といっても非常に多様です。さらに次節で述べるような特徴のために、範囲を定めるのが難しい側面もあります。

必要とされる知識量 ・ 知識レベルと IT 関連翻訳の特徴について

海岸
By Katie Claypoole (CC)
前節では IT 関連の翻訳者には多岐に渡るコンピュータの知識が必要だと述べました。が、それは例えばあるルータの仕様書を翻訳するために、そのルータを設計した技術者と同レベルの知識が必要だということではありません。翻訳者に求められるのはあくまでも、その文章が何について述べているのか、について大まかでもよいから推測できるだけの知識です。さらに、その文章が述べている対象について基本的な知識があればよいのです。もちろん技術者と同じだけの知識があれば言うことはありません。その場合はほぼ完璧な訳文ができるはずです。ですがそれは現実的ではありません。

これは他の業種での翻訳についても当てはまるでしょうか。残念ながら筆者には経験がないため判断できません。が、必要とされる知識については同じような傾向にあるのではないでしょうか。では逆に IT 関連にのみ通じる特殊性とはどのようなものでしょうか。筆者は以下のようなものだと考えます。

それはよく言われることではありますが、他の業種よりもトレンドの移り変わりが速い、というものです。例えば先ほどハードウェアとソフトウェアについて触れましたが、近年はハードウェアよりもソフトウェアの翻訳が増えていると耳にします。また、ハードウェアについても例えば十年前とは全く異なる規格が流通しているはずです。それは例えばインターネット接続においてダイヤルアップが全盛だった頃とブロードバンドが主流である現在との違いからも容易に推測できます。当然翻訳する内容も異なります。このような速さは IT 関連の翻訳の一つの特徴でしょう。

ではその他の特徴はどのようなものでしょうか。それは今述べたものと矛盾するものです。具体的に言えば、翻訳メモリが大きな武器になるということです。例えばあるソフトウェアをローカライズします。最初のローカライズ時には訳語を工夫し、最も適切なものを選ぶために時間をかけます。が、もしこのソフトウェアのアップグレード時にはどうでしょう。Windows のアップグレードの経験がある方ならわかるかもしれませんが、このような場合に訳文が全面的に書き換えられることはありえません。むしろほとんどが前回と同じ訳文になります。これを翻訳者側からいえば、前回の経験を利用できるということです。したがって翻訳メモリが有用になるわけです。これが IT 関連の今ひとつの特徴でしょう。

以上の 「 移り変わりが速い=新しいものがたくさん出てくる 」 という特徴と 「 翻訳メモリが活用できる=過去の遺産が活用できる 」 という相矛盾するような特徴が筆者の考える IT 関連の翻訳の特徴であります。

火事
By
Alex Miroshnichenko (CC)
このような特徴があるとすれば、IT 関連の翻訳をする上で必要な資質は以下のようなものでしょう。それは 「 新しい技術や知識に貪欲であり、かつ過去のデータをきちんと蓄積していく 」 というものです。後半の部分は翻訳メモリが補ってくれる部分ですが、前半は本人の資質によるでしょうし、英語での情報収集能力にも依存するでしょう。というのは、これは少し残念なことですが、ITに関しても知識はアメリカやヨーロッパからの輸入が大半だからです。簡単に言えば、新しい技術はまず英語で発表されるからです。

以上、翻訳業の特徴、業種の知識、および IT 関連翻訳の特徴、について論じました。ここに書いたことは全てがどなたかが既に書かれているようなものではありますが、何がしかの話しの種になれば幸いです。




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