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英文財務情報公開の必要性と翻訳の要件

インディアンの踊り
By Katie Claypoole (CC)
日本の企業が海外の市場で営業 ・ 販売活動を始める場合、先ず、自社の製品や技術を売り込まなくてはならない事は言うまでもありません。しかし、将来顧客として期待出来る企業から、その取引先としての信用を得る事も大切です。この取引先企業としての信用を確立するには、ある程度の時間といくつか実際の取引を成功させることが必要とされるでしょう。しかし、それ以前の市場開拓や新規顧客獲得の段階では、自社の財務状況を公開することにより、企業としての高い安定性 ・ 信用性を先ず相手方に印象づける事が重要です。企業の財務状況を英語で海外市場向けに公開するには、財務諸表などを英訳する作業が当然必要となってきます。この種の翻訳作業は、小説や新聞記事などの一般の英語翻訳と異なり、専門分野の翻訳の範疇に入り、英語のみならず、財務 ・ 会計の専門知識が必要とされます。本稿はこの二点 - 財務情報公開の必要性、及びその英文翻訳に関する要件 - について考えてみたいと思います。

英文財務情報公開の必要性

自社の製品の市場を海外に求める場合、海外の企業 ( 輸入 ・ 卸売業者、大規模小売販売企業、製造会社等 ) に直接輸出する方法、または、駐在員を現地に常駐させたり、輸入販売子会社を現地に設立して自ら営業活動を行う方法が考えられます。この営業活動に際し、自社の製品の品質、価格、納期などをアピールする事はもちろん重要ですが、同時に、自らの企業自体を売り込む事も考えなくてはなりません。顧客の立場からすれば、いつ倒産するかも知れないような会社、技術や製品開発に将来性のない会社などと取引を始めることは避けるでしょう。どんな企業にとっても、取引先となる相手企業が健全な財務状態を維持し、製品 ・ 技術開発や生産設備に適時投資を行うことにより、高品質の製品を、低価格で、長期的に安定供給が出来るかどうか、という課題は重要な評価の対象となります。この様な企業の安定性、信用性、また、経営者の意思や事業計画など、企業の特質を一番良く反映する情報が、その企業の財務関係のデータと言って良いでしょう。

数年前までは、企業の製品情報や会社案内などには、カタログやパンフレットが主に使われましたが、今日は、これらに加えてインターネットのウエッブサイトが使われています。ウエッブサイトは不特定多数の海外の企業をターゲットとして、会社 ・ 製品情報を提供出来るので、市場開拓の為の有力な手段です。このインターネット上の日本企業のウエッブサイトを見てみますと、和文だけで英文のサイトが無い企業、また英文のサイトがあっても、その内容は企業によってさまざまです。和文サイトをそのまま忠実に英訳し、同量の情報を提供しているサイトもあれば、英文サイトはほんのおまけ程度、といったサイトもあります。英文の財務関連の情報についてもサイトによってまちまちですが、どの程度のレベルの財務関連情報を公開するのが適切でしょうか?これは企業の規模、及びその企業が海外でどの様なビジネス活動をしているか(又は、したいか)によるでしょう。一部上場企業は ‐ 特に国外に株主や債権者がいる場合 ‐ 大概にして、事業報告書と決算短信に相当する、英文の‘Annual Report’を公示しています。‘Annual Report’に含まれる財務データは、貸借対照表、損益計算書、キャシュフロー計算書、剰余金計算書、及びこれら財務諸表に関連する注記事項からなります。さらに、‘Annual Report’には、当該年度の事業 ・ 業績のハイライト、部門別業績の概要、長期計画などが含まれ、その企業に関する包括的な情報を提供し、その量も100ページを超えるような膨大なものも見かけます。その逆に、二部上場もしくは非上場企業の場合には、その英文サイトで、その企業の最も基本的な概要データ(年度別売上高、純利益、従業員数など)を公開するだけで、英文財務諸表は公開してないところが多数見受けられます。一般的に言えば、企業が、海外での市場開拓の為に、会社案内などの英文パンフレット、及び英文インターネットサイトで財務内容を公開する場合、略式の財務情報で十分だと考えられます。これは提案ですが、略式財務情報に含まれるべき財務データは、貸借対照表、損益計算書,キャシュフロー計算書の三表、及びそれらの年次比較データ。注記事項は、通常、量が多いので金額ベースで重要と考えられる事項だけ英訳すれば、十分だと考えられます。例外として、先に述べた、外国に多数投資家がいる企業、及び外国の株式市場に上場している企業は、全ての財務諸表、全ての注記事項、及び公認会計士の監査報告書も英訳し、公示することが必要とされるでしょう。また、英文の会社案内については、財務関連のデータ以外の会社情報 - 例えば、会社の沿革、事業ハイライト、経営方針、経営目標、中 ・ 長期計画等 ‐ を提供する事も忘れてはなりません。

財務情報の英文翻訳の要件

かに漁
By David Parker (CC)
さて、ここで財務情報の英語への翻訳についてですが、これは英語に堪能であれば誰でも出来るわけではありません。財務 ・ 経理の分野では、難しい漢字や外来語はあまり使われませんが、各専門用語が、実際どの様な財務的意味をもつかは、会計学を学んだ人でなければ理解出来ません。例えば、'この取引を仕訳けする際の貸し方の勘定はxxxxx、借り方の勘定はyyyyyです’という簡単な文を見てみます。’仕訳'、'貸し方'、'借り方’などは会計学の最も基本的な用語で、一見、難しい日本語ではありません。しかし、一般の人には何の事かさっぱりでしょう。もう一つ例を取って見ましょう。‘この貸借対照表を見ると、棚卸資産を除く流動資産と流動負債の比率が低すぎる’これも簡単な文ですが、‘貸借対照表'、'流動資産’などの用語の本来の意義を理解していないと、この文は全く意味をなしません。このように、財務・経理というのは、かなり高度の専門分野です。翻訳作業でよく言われることですが、どのような専門分野でも原文を、翻訳者がある程度理解していないと、いくら翻訳言語に優れていても、高品質の結果を得る事は出来ません。英語一般に非常に精通している、もしくは、財務・経理に精通しているが、英語は単に学校でよく勉強しただけ、というのでは良い翻訳は望めません。少し例をあげて見ましょう。会計勘定の一つに'未払い費用’というのがあります。一般の方は、これはその字の示すごとく、未だ支払いを終えていない費用の請求額と考えるでしょう。そして、これをそのまま英訳すると’Unpaid Expense‘となるでしょう。しかし、会計学では支払いを終えていない費用の請求額は、’買掛金‘勘定(Accounts Payable)に算入されます。 '未払い費用’とは、物やサービスの提供はすでに受けたが、請求書を未だ受け取っていない費用、もしくは、支払い義務が生じた、内部で発生した費用(例えば、未払いの給与など)の事を指します。英文会計ではこれを‘Accrued Expense’と呼びますが、'未払い費用’をその字のとおり英訳すると、この様な訳語は出てきません。もうひとつ似たような例をとって見ます。減価償却というのは、固定資産の価値を定期的に低下(償却)させる会計処理ですが、この償却方法に主に二種類あります。一つは定額法、もう一つは定率法と呼ばれますが、これらをそのまま漢字どおり英訳すると、’Constant Amount Method’、’Constant Rate Method’などとなるでしょう。しかし、正しい英訳は、一見、原語と関連の無さそうな、’Straight-line Method’、‘Declining Balance Method’となります。このように、会計学では、日本語も英語も専門用語が広く確立されていて、単に日本語をそのまま英語に翻訳しては意味を成さないことが多く見られます。それでは、この専門分野の用語辞典を引きながら翻訳すれば良いかというと、ことはそう簡単ではありません。まず、用語をいちいち引いていては、大変な時間がかかり、非効率な作業となります。次に、一つの用語について英訳が一つ以上ある場合、どれを使って良いのか判断に困る場合がでてくるでしょう。例えば、'この無形固定資産は、五年間で償却します‘という原文を英訳する場合、’償却する’は通常depreciateと訳しますが、対象が無形固定資産(例えば、特許権やソフトウエアなど)の場合に限り、amortizeを使います。故に、この英訳は’This intangible asset will be amortized over 5 years.’となります。このように、文脈からどの訳語をつかうべきかの判断は、会計学を英語で学んでいないと、なかなか出来るものではありません。もう一つの問題は、用語が辞書に載ってない場合があります。一つ例をあげますと、退職金給付に関連して’国内では確定給付型の制度、海外では確定拠出型の制度を設けています。’となる原文があるとします。これを翻訳する際、‘確定給付型の制度’、‘確定拠出型の制度'という用語を、和英専門用語辞典で引いても(全部調べたわけではありませんが)載っている確率は低い筈です。しかし、会計学の勉強、もしくは会計実務を、日本語と英語の両方でなされた方なら、これらの用語の意味を理解するだけでなく、’defined benefit scheme’、‘defined contribution scheme’という英訳がすぐに出てくるはずです。

これらの例が示すように、財務 ・ 経理関連の翻訳というのは、一般翻訳と異なり、専門性の高い分野であり、その作業は日英両方の言語で会計学を理解していないと、精度の高い翻訳を一定時間内に期待するのは難しい、という事がお解かりになったと思います。故に、財務諸表等の英訳が必要な場合は、日英両方の言語でこの専門分野に精通している翻訳家に依頼するのがベストだと考えられます。ご自身で翻訳を試みるのも選択の一つですが、もし十分な自信がない場合は、その翻訳文書の英文校正、添削をプロの翻訳家に依頼することも出来ます。


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