「 Tu と Vou s」 フランス語翻訳の疑問 : ELSスタッフエッセーで解説 ( 日本語 )

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フランス語翻訳の問題点―― Tu と Vous

船
By jmt-29 (off-line) (CC)


フランス語翻訳の問題点のひとつにtu とvous の使い分けの問題があります。これは、初頭文法でtu は「君」でありvous は「あなた」であるとおそわりますから、あまり問題がなさそうにみえます。

また、意味としてはtu は親しい関係、vous は礼儀正しい関係、と説明を受けますからこれで問題なさそうです。また、現在は tuの用法が拡張していて、たとえば子どもの世界ではすべて、tuで済んでしまうとか、学生同士だと親しくなくてもtu ですませることは習われると思います。しかし、実際にフランス語翻訳の現場でいかに日本語に訳すかとなるといろいろ問題が生じるのです。

たとえば、夫婦はふつうtutoyerですが、奥さんがだんなさんをtuと呼んだときに、フランス語の翻訳で「君」と訳すべきでしょうか? これは言うまでもないことですが、tu を機械的に「君」と訳したらこれはもちろんまずいわけです。これと同じで会社の男性上司が若い女子社員にvous と言ったときも「あなた」はまずいわけでして、おそらくその際のベストは「君」なのではないでしょうか?現在の日本語では、若い人たちは「君」にも違和感があり、むしろ固有名詞でよばれること(「田中さんは、、、」)を歓迎するようです。

このようにフランス語翻訳の現場ではコンテクストによって、tu もvous もさまざまに変わっていくのです。これがフランス語翻訳の勘所です。

それにともなって、tutoyer , vouvoyer という動詞をどう訳すか、という問題も生じます。 実際に問題になるのはvouvouyerからtutoyerに移行する時にこうした動詞がつかわれることが多いのですが、これを「君―僕で話す」という訳語の一点張りでフランス語の翻訳をすませようというのは、少々まずいことはおわかりだと思います。これはたとえば「親しげな話し方にする」とかいう訳語を用意しておく必要がある、ということです。

また、このvouvoyerからtutoyerに移行することが小説の中で時として起こりますが、これはどういうことを意味しているかをきちんと考えておく必要があります。そしてフランス語翻訳の上で最新の注意が必要です。

たとえば、『レ・ミゼラブル』のなかで主人公のジャン・ヴァルジャンはパリ郊外の森の中で8歳の少女に出会います。この子に最初話しかけるときは、vous です。これに対して、この家でひどい扱いを受けて大人を恐がっているこのいたいけな少女コゼットは、oui , Monsieur と非常に丁寧な返事を繰り返します。しばらく話をして、ふたりの間にある程度の信頼感が作られたときになって、ジャン・ヴァルジャンはコゼットをtu と呼ぶようになります(コゼットは、相手をvous と呼ぶことを改めませんが)

これは割合と常識的な変化でして、驚くにはあたりません。しかしこの変化には日本でのフランス語翻訳に固有の問題があります。それは、日本語では相手の主語を省略する傾向があるということと、もうひとつ、「君」「お前」等、tuに該当すると思われる表現に対する語感が歴史的にも異なるし、現在では世代によっても異なるからです。たとえば、中年以上の読者であれば、50代の貧しげだが知的な男(ジャン・ヴァルジャン)が8歳のこれも貧しげな少女に対して「君」というのはおそらくそれほど抵抗がないものと思われますが、若い世代だとどうでしょうか。

また、いままでvous で話していたのが、急にtuに変わるのは相手をバカにするような気持ちが発生したためというケースがあります。これもフランス語翻訳上、注意が必要な例です。19世紀初頭の文学者シャルル・ノディエの作品『パンくずの妖精』のなかでは、そういう例があります。齢3000歳になんなんとする妖精は、グランヴィル出身の主人公ミシェル君を恐るるに足らずと判断すると急にばかにして、tutoyerに変わるのです。こういうケースでは、フランス語翻訳としては、もちろんそれに対応した訳出の仕方が求められることになります。


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パリから日帰りでいけるフランスーーアミアン

アミアンはパリから列車で1時間ほどで行ける田舎町で、有名な大聖堂以外にこれといったものもありませんが、この大聖堂と町を囲む運河地帯を見るだけでも、一日を費やす価値があります。

アミアンを含むピカルディー地方は英仏海峡を渡ってフランスに入ってくる英国人たちがパリに行く途中のルートにあたりまして、とくにこのアミアンとお隣のアブヴィルは英国人に大変人気がありました。

そのために、英国の高名な美術評論家ラスキンが『アミアンの聖書』(大聖堂のこと)を著して、この教会の持つ意味を深く分析しています。

また、アミアンのまちの周囲には運河があり、現在はいちぶ観光地化していますが、この運河、また郊外の煉瓦造りの家々、郊外にひろがる田園地帯など、すでにこのあたりから、ベルギー、オランダに風土的に近いものを感じさせます。


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